「アレンの眼って銀灰色なのよね」
「ちょっと青が混じってるんですけどね。知りませんでした?」
「すこし色素が薄いせいかな、光の当たり具合でいろんな色に見えるから…」


知らなかったわけじゃないのよ、と一言前置きしてから、
改めてアレンの顔を覗き込んでみる。
近いですよ、と彼はくすぐったそうに笑ってぱちりと瞬きをした。

室内灯の下で見るその目は少し光を増しているものの、限りなく本来の色味に近い。
快晴の空の下ではもっと青みが強くなるし、
(そのせいで私はずっと彼の目は銀青色だと思いこんでいた)
木々が生い茂る深い森の中を歩けば淡い緑を帯びるし、
辺り一面が夕焼けになれば茜色に染まって見えるし。


「特にこの前のイタリアの任務の時は驚いたわ」
「ああ、あの時の。あそこの岬から見える夕焼けは有名だそうですね」
「アレンの眼って本当は赤色なのかなって、本気で思ったもの」
「赤い眼に白い髪ですか…」
「まるでウサギね」
「あっ、からかってるでしょ!」


予想通りの反応をしてくれる彼に、こみ上がってくる笑みは隠さないまま、
腕を伸ばしてアレンの頭を撫でた。
納得いかないとでも言いたげな視線が下から送られてきたが気にしない。

教団内部では「大人びて見える」という声をよく聞くが、
こういうところは年相応の、もしくはもっと幼い少年みたいだと思った。

こんな所で、左手に十字架を受けてなどいない、ごく普通の少年に。


「…そうですよ、僕は寂しがり屋なんです。
 だから、ね。さん。
 寂しさでは流石に死ねないけれど、悲しみますよ。一人にされたら」


ほんの少しだけトーンが落とされたその声は、
彼の心の奥底に隠された悲しみを映し出したようだった。
曖昧に逸らされた視線に、撫でていた腕をそのまま伸ばしてアレンの背中に回した。

あたたかい背中をゆっくり撫でる。
寂しいのは嫌です、ともう一度低く呟いた彼に、


「大丈夫よ。こんな可愛いウサギを置いて、いなくなるわけがないわ」


そう囁いて、白い前髪をそっと分けた額に小さくキスをした。





ロンリーラビット










2006/06/18
これのためにコミック4巻を読み直しました…