「例えるなら、人生のようなものだと思うの」 彼女が此処、『デビル メイ クライ』に住み込むようになってから 見違えるほど綺麗になったシンクにもたれて、はそう微かに唇の端を上げた。 優しく細まる目元はほんの少しだけ、赤く腫れている。 「めくっていけば最後には何もないことに気付くでしょう?」 言いながら、さっきからさして広くもない戸口に立って 何か言いたげな視線を送り続けているダンテにもう一度小さく笑い掛けると、 彼が口を開く前にサッと素早く背中を向けた。 もしもが横目で盗み見ていたなら、 がっくりと肩を落とすダンテの姿が目に入っただろうに。 トン、トン。 苛立ったとき、今この場にはいない彼の兄がよくする テーブルの端を叩く癖にも似た音が、ますますダンテの肩と気分を凹ませていく。 「過程には涙を流し、目の奥を痛める……そんな所もソックリ」 「そう思わない?」と、ほとんど独り言のように呟いた少女との間は数メートル。 まずはこの距離から縮めなければ話にならない。 そう判断し、力なく下がっていた右手を必死に上げて、 「おい、……」 「寄らないで」 間髪入れずに返ってきた拒絶の言葉に、伸ばし掛けた指が思わず止まる。 この世界では随分と名の知れたデビルハンターである彼が、 惚れ込んだ相手とはいえ、ただ一人の女のために滑稽な姿のまま固まった場面を見れば 数少ない仕事仲間は笑うだろうか、同情してくれるだろうか。 「拒むことは許さないから」 凛とした響きを含んだ声と、同時に熱気を帯びた空気が頬を撫でていくのを感じて ダンテはああ、とうなだれた。 遂にここまで来てしまった。もう後には退けない。 この場のこの状況から逃げることは容易いが、そうすればきっとは怒るだろう。 彼女のことだ。このことを根に持ったまま、数日間はキスを拒むどころか 下手をすれば口すらきいてくれないかも知れない。 それぐらいなら、と 悪魔さえ泣き出すデビルハンターは覚悟を決めた。 「…俺が野菜嫌いなの知ってるだろ?」 「ピザに乗ってるスライスは大丈夫でしょ。何事も経験が大事」 香ばしい湯気に満ちた皿を前に、綺麗に磨かれたフォークを握りしめ 情けない声を出すダンテをあやすように肩を叩いたは 椅子に座っているために自分より低い位置にある彼の頬へそっと唇を落とす。 「美味しく食べてね、My Darling?」 とろける声。甘い囁き。 滅多に聞くことの出来ない彼女のそんな一言に、 沈んでいたテンションを大幅に回復させたダンテはその勢いのまま、 皿の上の料理を無事食べきったとか。 「…しかし、何故タマネギなんだ?」 「ん? 私が好きだから」 好きな人との間にある相違は出来るだけ無くしてしまいたいのが本音でしょ? そう鮮やかに微笑むに、野暮用から帰ってきて事の一部始終を聞いたバージルが ほんの少しだけダンテに嫉妬したというのは、また別のお話。 003, その 間 を 埋める努力 2005/07/09 言葉遊びです。タマネギ…ちなみに元ネタは某深夜番組の寸劇から(笑) 「人生はたまねぎに似ている。一枚一枚皮をむいていくと、中には何もないことに気付く。」 |