俺にとっては早朝の8時23分。
おはようと笑ったが遠慮なしにシーツを引っ張った。
何なんだ一体。今日は仕事も用事もなかったはずだ。
まだ半分眠っているせいで上手く回らない口を欠伸でごまかしながら聞くと、
「今日は天気が良いからと洗濯しようと思って」と至極明解な返事。
そりゃ結構。その代わり俺の休みと安眠を返してくれ。


よっぽど皮肉を込めて言おうとしたのに、
上機嫌らしいの鼻歌とおはようのキスのせいで結局何も言えなかった。
あの笑顔に勝てた試しがない。女神の微笑みとはまさにこのことだ。






瞼の重い午後15時11分。
朝飯の後にふらりと買い物に出ていたがアップルパイを焼いてくれた。
眠気なんかどっかに行った。この際、ダンテは単純だねと笑われても構わない。
焼き色も甘い匂いも申し分ねぇ。焼き立てに噛み付くと程よくシナモンの香りがした。
相変わらず器用なやつだ。
素直に礼を言うと「どういたしまして」と照れたように笑う。…可愛い。


二つ目に手を伸ばしていると、突然ひでぇ音がした。ついでに叫び声も。
ろくに味わいもしないうちにパイを飲み込んで駆けつけると、
皿を割らなかったかわりに見事に転んで涙目になっていたと目が合った。
…前言撤回。器用なんじゃない、器用に見える不器用だ。
ただの場合、こういった人間らしい失敗はやっぱり可愛いかも知れない。






深夜というにはまだ早い23時47分。
夕食後に入った急ぎの依頼に、と連れ立って悪魔に喧嘩を売りに行く。
舞台は街外れの荒れたアパート。デートにはオススメできそうにない。
最近この手の仕事は少なかったせいか、は「勘が鈍ったみたい」と渋い顔だ。
お世辞じゃないと誓っても良い、とてもじゃないがそうは見えなかった。


歓迎の鎌を振り上げる悪魔に弾丸のキス。
足場の悪さに隙を突かれて背後をとられたときは少しばかり焦ったものの、
掠り傷を食らったがそいつの首を足蹴にする姿は悪魔以上に悪魔らしかったかも知れない。






最後の一匹に鉛弾で別れを告げ、二人でさっさと外に出る。
いつもより多めに動いたのおかげで全部片付いたときにはまだ『今日』だった。


そういえば今日は彼女を何かに例えてばかりだ。
女神のように微笑んで、人間のように失敗をして、悪魔のように命を奪う。




「…なぁ
「どうしたの、まだ仕事が残ってた?」
「もしも俺が人間でも悪魔でもなかったら、お前はどうした?」




何となく思ったままを口にしたつもりだったが、
は怪訝な顔で「変なことを聞くのね」、と空を仰ぐ。




「ダンテはいつだってダンテじゃない」




思いがけない彼女の返事に、不思議と気分が良くなった。
それもそうだ、との腰を引き寄せ、額に触れるだけのキスを送ってバイクに乗り込む。
ふと視線を落とした先の彼女の腕時計はすでに『明日』を示していた。




所詮、俺がさっきまで考えていた答えもこんなものだろう。
日付が変わるよりも些細で簡単なことだ。


たとえどんな顔を持っていても、だということ。










トワイライト
プリズム
















2007/08/27