鳶色 にたゆたう






頬に触れる空気の、そのあまりの冷たさに目が覚めた。
寒い。とにかく寒い。思わず寝返りをうった布団の中でぶるりと肩が震える。

いつの間にこんなに冷え込むようになったんだろう。
こんなことなら夜着をもう少し厚手のものにしておけば良かった…、と
昨夜の自分に後悔しながら身体を起こそうとすると、
隣の布団から音もなく伸びてきた腕に手首を掴まれた。


「……どこ行くんだ」


いつもより低く掠れた政宗の声。
毛布の隙間から覗く左目はまだ眠そうに瞬いている。
きっとこの寒さのために、頭の先まですっぽりと布団の中に潜り込んでいたんだろう。
引き止める彼の腕は私より、かすかに暖かかった。


「おはよう政宗。起きたなら一緒にそこから出るか、離してくれると嬉しいんだけど」


やんわりと朝のあいさつをしながら、掴まれたままの腕を軽くひっぱってみる。
…分かってはいたけれど、びくともしない。
まぁ、彼が布団から出てこない気持ちは分かる。
こんな寒い日は起き上がること自体が億劫だ。


仕方ない、と巻きついたまま離れない指を剥がしにかかる。
その長い人差し指に手をかけた瞬間、もう片方の政宗の腕が布団から伸びてきた。
寝起きとは思えない素早い動きで腰に手を回され、
あれよあれよという間に、私はものの見事に彼の布団の中へ引きずり込まれた。


「…政宗、『拉致』って言葉を知ってる?」
「Oh〜? 聞こえねぇな」
「どうするの? まだ起きたくないなら、小十郎さんにそう言ってくるけど」
「もう少し寝かせろ。…お前も一緒にだ」


今のひと悶着でいつもの調子が戻ってきたらしい政宗が喉を鳴らす。
うす暗い布団の中で、お互いの呼吸と心音が聞こえそうな距離で見つめあったあと、
二人で声を立てて笑った。
今度は優しい力でゆっくりと抱きしめられる。


まわりには柔らかい毛布の肌触り。傍には政宗の体温と腕。
冷たい朝の空気から隔離されたこの場所で、小十郎さんが起こしに来るまで、
二度寝するのもたまには悪くないかもしれない。

抱きしめられた腕の中で彼を見上げる。
また少し眠そうな目に戻った政宗がにやりと笑って、額に口付けをくれた。
お返しにと鳶色のその髪に唇を寄せて目を閉じる。


冬の気配、くすぐる呼吸、やさしい体温。
見るのはきっと政宗の夢。








2006/11/27