ふた月ぶりの口付けは血の味がした。


「…HA、相変わらず甘ぇ唇だ」
「そういう政宗は鉄の味がする」


顔を離すなり低く笑って、ぺろりと私の唇を舐める政宗に冷ややかに答える。
熱が冷め切っていないらしい片目が苛立ったように細められたけれど、
文句の代わりにもう一度苦い口付けが降ってきた。




普段はやさしく真摯な彼も、戦明けとなれば話は別らしい。
今回も無事に帰ってきたと連絡を受けて、城門の前で出迎えた私を
政宗は兜も脱がずに引き寄せた。

噛み付くように唇を吸われる。何度も、何度も。

今回の戦で私を置いていくと決めたのは政宗だ。
私はもちろん付いて行きたかったけれど、彼がそう言うのなら、と大人しく引き下がった。
その報酬が苦い錆味の接吻となれば、誰だって良い気はしない。


浅くなる呼吸に思わず意識がぼやける。腰に回された手に力が込められた。
がちゃりと重い音を立てる鎧が煩わしい。


「…っ…は、ぁ…」


息苦しさに、思わずうっすらと目を開けた私は見てしまった。

切なそうに目を伏せて睫毛を震わせる、奥州の覇者を。

その端正な顔は私以上に苦しげで、思わず腕を伸ばして目の前にある頬に触れた。
いくらか痩せた輪郭を撫で、少し驚いたように唇を開放する彼に微笑むと、
そのまま首に手を回して抱きしめる。


「…気は済んだ?」
「……まぁな。とりあえず、渇きはおさまった」


そう笑った顔は、もういつもの政宗に戻っていた。
「汚しちまったな」と申し訳なさそうに私の着物をはたいて、
門のずっと手前辺りに控えていたらしい小十郎に軽く手を上げる。
主に忠実な彼は静かに一礼してから、後方の部下たちと一緒にこちらへ戻ってくる。

みんなの元気そうな姿に目を細めながら、隣で肩を抱く政宗を見上げた。
陣羽織に指を絡めると、視線を合わせるように腰を落としてくれる。

飢えた狼の渇きが消えて、戻ってきたのはいつもの、竜を名乗る片目の彼。



「おかえりなさい、政宗」



ようやく自分から出来た口づけは、まるで軽く啄ばむひな鳥のように。








の挨拶、
の再会










2007/08/27
そんな二人を小十郎はずっと待っていた、ってオチ(…)