さんは酷いお人や」
「…私、市丸くんに何かしたっけ?」


おいしいお茶菓子つきのお茶の時間。
そんな和やかな空気に、文字通り水を指すような彼の発言に
思わず聞き返す私の声も低くなる。

市丸くんとは彼が藍染さんの部下になった頃からの仲だけれど、
彼のこういった言動にはいまだに馴染めないというか、慣れない。
それは彼の不敵な笑みの影響も勿論あるが、
なにか得体の知れないものが彼の行動の裏にはあるような気がする。


「いーや? いつも通り、ボクの買ってきたお菓子を食べてくれはるさんやね」
「それは言葉のまま受け取っても良いの…?」
「勿論。美味しいやろ、ここの芋羊羹」


いつもの読めない笑みを浮かべたままそう言って、もぐもぐと口を動かす。
行動に一貫性がないのは「子供っぽいから」と言えばそれまでなのかも知れない。
けれど彼は子供という年じゃないし、そう言い切るにはおかしい気がした。
だって子供は、こんな含んだ目で笑ったりなんかしない。


「…ねぇ。言いたいことがあるなら、はっきり言って?
 そうじゃないと私、市丸くんのことが本当に苦手になりそう。
 できれば市丸くんとは、ずっと仲良しのままでいたいから」


ただ、今日のその彼の目は、いつもより少し怖い気がして。
日ごろから思っていたことをつい口にしてしまった。
失礼なことを言って怒られるかな、とも思ったけれど、
市丸くんは芋羊羹の乗ったお皿に手を伸ばしかけたまま止まっている。

痛い沈黙。
視線だけが、色付くように交わって。


「…やっぱさんは酷いお人や」
「……どういうこと?」
さんがそう言うんやったら、ボク正直に言うよ?」


私の質問には答えず、じっとこちらを見つめてくる。
まるで私の心の奥底まで見つめてくるような、その真剣な眼差しは
いつもの彼の目じゃなかった。

彼の笑みが、
読めないいつもの表情が、消える。



さんが盗ってったボクの心、返してや」





ひとさらい










2006/12/12
持ってかれたココロは何処いった?