さよなら




好きだと思った。傍に置いておきたいと思った。自分だけのものになれば良いと思った。
思ってしまったらもう止まらなかった。溢れ出る欲求に身を任せるのは容易い。
あいつが笑えば心地よかったし、泣けば胸の奥がひどく軋んだ。
長い髪も顔半分を覆う仮面も細身の刀も、あいつのものだと思うだけで視線が離せなかった。
小さな声で名前を呼ばれるたびに俺の中の何かが壊れて、
ぐちゃぐちゃになって、でもそれで良いと思えた。
あいつのキスはやわらかくて甘かった。交わした言葉はそれ以上だった。


あいつに触れちゃいけなかった。この感情の正体に迫っちゃならなかった。
全部分かっていたのに手を出した。待つのは破滅だけと知っていながら。


あいつは消えた。仲間を庇ってひとりで死んだ。
戦士はいつか死ぬ。それでなくても呆れるほど優しいやつだ、早死には目に見えていた。
気付かなければ、知らないふりをしていれば、この想いは芽吹く前に枯れたはずだった。
どうして手を伸ばしたんだ。見ているだけで、傍にいるだけで良かったのに。
太陽は焦がれるだけで十分だろう。湖面の月すら掴めない俺に何ができた?
絶望に見上げた空は最後に見たの眼の色だった。




僕のエミリー










2007/12/18
もう戻らない俺の恋人