「1に0を4つ付けて、」
「…ああ」
「それを365で割ると?」
「………27。それと四捨五入で余りが40」
「さすがクラウド。計算早いね」


昔から早かったものね、と微笑みかけるに対してクラウドは無表情だった。
もともと感情表現が豊かな方ではないのだ。
それでも今、彼の表情はいつもより硬くなっていた。

彼女の口から何気なくこぼれた『昔』という言葉。
その単語が持つ定義は人によって曖昧なはずだ。
しかし彼女のいう『昔』とは神羅カンパニーにいたあの頃だということを、
口にはせずともクラウドは分かっていた。

まだ英雄と呼ばれた男が純粋な憧れであって、
まだ笑顔のままだった先輩がかけがいのない親友であって、
まだ幼げの残る女性が、淡い片思いの相手だった。
そんな、時代。


「…まだ、待つつもりなのか」


渇いた喉から落ちた声は思った以上に震えていた。
かすかに掠れてさえいたその音に視線を上げたは、
口元に浮かべていた微笑みをそっとしまい込んで、


「…約束、だからね」


そう、愛おしげに目元を細ませた。



『そういえば、この前の遠征先で面白い話を聞いた』
『へぇ、どんな話?』
『とある国では本当に愛する女に求婚の言葉を贈るとき、一万本の薔薇を添えるそうだ』
『へぇ〜そりゃすげぇ!!』
『ザックス、コーヒーこぼれるわよ。それにしてもロマンチックな話ね』
『しかし俺でも薔薇を一度に一万本揃えてくれる店はさすがに知らん』
『………砂糖の入れすぎだぜ、ダンナ』
『……同感』
『だからせめて一万回陽が登って落ちるその日まで、の傍にいようと思うのだが』
『………そこまでしてその国の風習を真似る意味が分からないわ』
『簡単なことだ。俺は欲張りだからな』



「……私は欲張りだから、」


目を細めたその一瞬、『昔』の顔をしていたは、
次の瞬間にはもう『今』の彼女に戻っていた。
彼女をずっと見てきたクラウドだからこそ分かる、その微妙な表情の違いは、
ますます彼の表情をこわばらせていく。


「終わったはずの過去さえも捨てきれずに、仕舞いこんでしまう」


…欲張りだというなら、なぜ。
なぜ、すぐ傍にあるこの気持ちに手を伸ばしてはくれないのか。

決して問うことは許されない想いを抱えたまま、口を噤んだクラウドに背を向けて
は静かに微笑んでいる。





001,10000日目
の約束








2006/02/22