夢の中で、私は戦場にいた。立ったこともないはずの戦場にだ。
埃っぽい風。鉄の焼ける重いにおい。
視界にはたくさんの人間が溢れていたけれど、
刀を握ってはいても、息をしている人は誰一人としていなかった。

(手に触れる、濡れた感触と、さけびごえ)


「…っ!」


肩を軽くゆすられる感触に飛び起きた。
驚きに一瞬止まった息を、胸に手を当ててゆっくり吐き出す。
少しずつクリアになる視界と思考。それから、見慣れた金色と緋色。


「キュウ、ゾウ」
「…魘されていた」
「そんな、に?」


小さく頷く彼の目がいつもと違う色に揺れていた。
弱々しい瞳。心配、させてしまった。
申し訳なさと、その中にわずかに混じる不思議な安心感に全身が包まれる。

(それでもやはり、消えないさけびごえの余韻)

思わず胸元を掴んでいた指先をそろそろと離して、手のひらを握りしめてみた。
伸びた爪がやわらかく肌に食い込む。
わずかに汗ばんではいたけれど、そこはもちろん赤く濡れてなんかなかった。


「…ゆめを見たの。それだけ」


そう、それだけ。
あれは夢だ。だって私は戦場に立ったことがない。
刀の道を選びはしたけれど、彼と違って、本物の戦場の景色を知らない。
今までも、そしてきっと、これからも。


「ごめんなさい、起こしてしまって。もう大丈夫だから」
「傍に、いる」
「……ありがと」


自分だって休まないと辛いはずなのに、
布団のすぐ傍に正座してくれるキュウゾウがどうしようもなく愛おしかった。
できるだけ自然に笑って目を閉じる。

閉じた瞼に、、と掠れた呼び声が落ちてきた。
そして布団の上に転がる私の手に触れてくる、すこし冷たい彼の指。
さらりと乾いていたはずのその指が、
閉じた瞼の裏でほんの一瞬だけ、ぬるりと濡れていたような気がした。


ああ、もしかしたら私に戦場を教えるのは他ならぬ彼なのかも知れない。
落ちていく意識の隅で思った。





血を知る指が
見せた幻








2007/03/12
おっさまに会う前の二人なイメージ。そして実は侍7を知って2日で書いた(…)