深夜の見回りの途中、森の手前あたりでを見つけた。
思わず足を止めて目を細める。

精神統一でもしているのか、夜を相手に一人で剣を振るう彼女の姿は
着物の色とも相まってやけに白くこの目に映った。
ひるがえる腕。しなやかな脚。ほっそりとした横顔。
真夜中に広がる静けさの中、外気に晒されている肌はさながら淡い月光のようだ。


「おやすみにならないんですか」


惹き寄せられるようにするすると近付くと、刀を鞘に納めた彼女が振り返る。
挨拶代わりの質問には簡潔に「見回りがある」とだけ返した。
お疲れ様です、と心なしか申し訳なさそうに微笑む彼女の頬はやはり白い。


「―――お前は、白いな」


思わず口を出た言葉は、世間一般にいえば女の肌を褒める男の言葉だっただろう。
だがその気は全く無かった(と、言い切ればそれは少し嘘になるかもしれない)

ただ、純粋に。白いと思ったのだ。

肌だけではない。着物だけではない。
という姿かたちが、しろいと思った。


「…私は、あなたを初めて見たとき、なんて美しい緋色だろうと思いました」


やがて、少しの間を置いて返ってきた静かな声。
怖ろしさや、不信感や、ちょっとした憧れなど、
そういったもっともらしい感情や印象はすべて後回しにしてそう思ったのだと、
こちらを真っ直ぐに見上げて彼女は言う。


「私が白なら、キュウゾウ殿は紅ですね」


紅白で縁起が良いかしら。
独り言のように小さく言って微笑むと、はおもむろに背を向けて抜刀した。
居合いの鋭い一閃。空を切る見事な太刀筋。
月光を反射した刀身がまとわりつく闇を突き放すように煌く。


「明日には私も見回りに出ます。今晩はそろそろ休ませて頂きますね。
 キュウゾウ殿も気を付けて」
「…ああ」


再び刀を鞘へと戻し、軽く一礼して帰ろうとする彼女に
一拍遅れの返事をして自分も背を向けた。

…ただ、一度だけ。
夜闇の中でだんだん小さく遠くなっていくの姿を名残惜しげに振り返る。


ああ、その刀を握る背中のなんと白く愛おしいことか。













2007/03/13
ふたいろめいさい。でもそれって本当に迷彩?