さんは私たちの村の稲穂が金色の頭をもたげるようになるころ、
胸に黄色の菊と深紅の彼岸花を抱いてやってきます。
私の家を訪ねてくれるたび、また綺麗になったね、と目を細めて笑う彼女は
再会のたびに少しずつ痩せていて、けれどその分その美貌はますます際立っていくようでした。

歓迎のしるしに、と食卓に並べる炊き立てのお米を、
さんは何度も何度もおいしいと言って食べてくれます。
あの人たちは幸せ者だわ、というのも忘れません。
こんなにおいしいお米を毎日たべさせてもらえるんだものね、と
ひどく懐かしそうに笑って。

その日の夜は決まって蝋燭の明かりの下で二人だけの話をします。
(彼女の来訪にはしゃぎ疲れた妹はいつもすっかり眠ってしまっていたので)
くすくす笑いながら語るのは村のこと、さんのこと、そして昔の話を少しだけ。


さんがあれから毎年この村へ来てくれることが
私には嬉しくて、けれど少し悲しかった。
ここに彼女を縛り付けているのは思い出だけではないと分かっていても、
ちくりちくりと痛む記憶はどうしようもありませんでした。
そう。どうしようも、なかったのです。

さんは強いひとでした。
私はその強さに憧れて、けれど彼女のようには決してなれないと分かっていました。
だから私は言ったのです。もう、いいのではないですか、と。


村のすべてが見渡せる丘の上で、さんはゆっくり振り返るとじっと私を見つめました。
ぬるい秋の風が吹いて、二人の間から音が消えて、
そうして彼女は静かに目を閉じました。

…そうね。そうかもしれない。けれど、でも。


「剣に生きたあの人が、銃に倒れたこと。それだけが、わたしの、」





ラメント





唐突に言葉を切り、痩せた指で顔を隠したさんの胸で
黄色と深紅の花束が秋風に揺れていました。


震える肩を抱き、流れる涙から彼女を守った二本の刀はとうに錆びついて、
かつてそれを握った男の人も、もうここには居ません。
それでもさんはこれからもこの村に来るのでしょう。
だから私は丘の雑草を抜き、お米を供え、枯れていく花を見守り、彼女を待つのです。






2008/06/24
黄色は髪、深紅は衣、流す涙は彼への想い