真夜中に口笛







宵の口から続けていた読書にも飽きてしまい、そろそろ休もうかと蝋燭を吹き消そうとすると、
どこからか虫の音に混じって小さな口笛が聞こえてきた。
ほう、と興味を引かれて耳を澄ます。
怪談話にしては少し下手な音だ。途切れ途切れのそれは調子外れの歌に聞こえなくもない。

好奇心を満たすついでに、固まった身体をほぐしてから寝るのも悪くないか。

そう思い立つと吹き消そうとしていた蝋燭を片手に自室を出て、口笛の聞こえる方へと足を向けた。
しんと静まり返った夜の空気は気分が良い。
青みを帯びた月光に照らされた庭に視線をやりながら、冷たい廊下をひたひた歩いていく。


「蛇が出てきてしまいますよ」


不器用な口笛の主はすぐに見つかった。
部屋の前の廊下にぺたんと座り込んで、庭の方を向きながら唇をすぼめていたに声を掛けると、
彼女は特に驚いた様子もなく顔をあげて微笑んだ。


「こんばんは、光秀さま」
「やはり貴女でしたか」
「…気付いておられたんですか?」
「もう少し練習したほうが良い。怪談話にもなりませんよ」


ただし昼間にね、と薄く笑う。
これといった根拠はなかったが予想はしていた。この屋敷でこんな真似をするのは彼女くらいだ。
は少し驚いたような顔でこちらを見上げてきたが、すぐに嬉しそうな微笑みに戻った。


「いいえ、夜じゃないと駄目なんです」


下手なのは承知の上ですよ。そう言っては着物の裾を直しながら立ち上がった。
白い着物が月光を浴びて青白く浮かび上がって見える。
その色は庭の池に映った、自分の髪の色を思わせた。



「あなたが出てきてくださるかと思って」






蛇が出るか 髑髏 が出るか








2008/03/27
あなたはうつくしい白蛇に似ている