「素敵だけれど、やっぱり食事の席には向かないね」 「おや、そうですか」 「うん。香りに溺れてしまいそう」 二人きりの夕食を終え、空になった食器のかわりに奥からが抱いてきたのは 小ぶりだが美しい白い薔薇の中に淡いピンクの薔薇が数本、 それに品よく添えられたカスミ草のあふれる大きな花瓶だった。 数日前に外出先から帰ってきた骸が「お土産です」と贈ったものだが、 は「骸が花なんて!」と冗談交じりに言いながらも、嬉しそうに笑って大事に飾っていた。 両手に溢れるほどの花束を贈ったのだ、花を入れる花瓶も大きい。 彼女の腕には重いのだろう。ゆっくりとした手つきでテーブルの上へと戻す。 「残念ですね。雨の多いこの時期、華やかで良いかと思ったんですが」 骸はそんなの動きをじっと見つめながら、 湿気が多いせいですかねぇ、と呟いて花瓶に手を伸ばす。 贈ったときは蕾混じりだったのだが、今はどの花もすっかり開ききっている。 「やはり、長くはもちませんでしたね」 花瓶の中でも花びらの端が少しばかり色褪せた薔薇を引き抜くと、 ためらいもなくその花びらをむしり取った。 「ああっ、もったいない…!」 「これくらいまた買ってあげますよ」 「そういう問題じゃなくてっ…」 思わず声を上げるにクフフ、と微笑みかけてその肩を抱く。 途端に大人しくなる彼女にもう一度笑って、回した腕とは反対の手で花瓶を持ち上げた。 なるほど確かに重いが、しばらく歩くくらいなら問題はなさそうだ。 「有効活用に薔薇風呂なんてどうですか」 もちろん二人でね、と囁く骸の手には散らされた薔薇の花びら。
六月の薔薇は花嫁へ
2007/08/08 |