ジャッポネーゼにしては随分と肌の白い女だと思った。 そしてはるか向こう側に立っている的を撃ち抜く銃の扱いも、 「なかなかだな」 「っこれは…」 俺の顔を見るなり銃を下ろし、数歩下がってまで頭を下げようとするから 片手で「そのままで良い」と制して顔を上げさせた。 丁寧すぎる対応は嫌いじゃないが、いかんせんあの国の出身者は腰が低すぎる。 「気付かず申し訳ありませんでした、リボーンさん」 「構わねぇぞ。殺し屋が気配を読まれるほうが問題だしな」 「…確かに」 それもそうですね、と小さく笑う女の口元に視線がいく。 抑えた微笑み方だ。ひかえめな、そして作り物の。 もっと素直に、せめてもう少しくらい明るく笑っても誰も叱りはしないのに。 「ボンゴレ一のヒットマンが銃の練習もないでしょう。どなたかお探しですか?」 「別にそういうわけでもねぇが」 新人にジャッポネーゼのやり手がいると聞いて、どんな奴か気になっただけだ、と そう正直に言っても構わなかったが、そうすれば女は今度こそ深々と頭を下げるだろう。 嘘をついているわけでもないので黙っておくことにする。 「いつも練習してんのか?」 「仕事の合間に、少しだけ。日本では銃を持つ機会すらなかったですから」 「育ちもあっちなのか」 「こちらで最低限の知識を学ぶ以外はずっと。お恥ずかしい話です」 だから、せめて足手まといにだけはならないように。 大事そうに銃を抱いて、「でもなかなか上手くいかなくて」と苦笑する。 長距離練習用の的の左胸と眉間を寸分違わず捉えているやつが何を言うのか。 「いい心掛けだな。それは褒めてやる」 「そんな、もったいない…!」 ああ、やっぱり頭を下げてしまった。顔が見えない。 腰が低すぎるのも考えものだ。 「…射撃の腕より、まずはそっちを直したほうがいいな」 「そっち、とは?」 「なんでもない」 曖昧に言葉を濁しながら、足音をさせぬように近付いて 彼女の右手からよく手入れされている銃をするりと奪った。 今まであまり使われる機会がなかったらしいロングバレルは綺麗な黒で、 その色が流れる黒髪と重なり、思わず唇を寄せる。 ちゅ、と音を立てるとひどく驚いた顔がこちらを見上げていた。 そうだ。やっぱりお前は素直に感情を出したほうが良い。 「次はショートバレルも練習しとけよ」 チェックしに来るからな、と唇の端を歪めながら驚いた顔に背を向けた。
ファーストコンタクト
(それは俺の気まぐれと 彼女の勤勉さが生んだ偶然)
2007/07/30 「どうしたのさリボーン、珍しいね」 「何がだ」 「そんな楽しそうな顔して。何か良いことでもあった?」 |