最初から今まで
「俺の全部、さんにあげる」 突拍子もない告白だったと、自分でもそう思う。 突然、それも窓からの訪問にも嫌な顔ひとつしないで 丁寧にお茶を淹れてくれていたさんが驚きと戸惑いに目を見開く。 普段からしっとり冷静な彼女には珍しい。ちょっと新鮮。 「…佐助ったら酔ってるの?」 「まさか。第一、俺が酔わない体質だってよく知ってるでしょ」 「それは、そうだけど」 曖昧に言葉を濁した彼女は「分からない」とでも言いたげに首を傾ける。 無理もない。突然言われたら誰だって驚くような台詞を言った。 だからもう一度、 「俺の全部をさんにあげる」 「…全部?」 「そう、ぜんぶ」 目も口も耳も、 爪の先、心臓の鼓動、落ちる髪の一本すらも。 「ふふ、それって支配とは紙一重?」 「むしろさんになら支配されても良いけどね、俺は」 「束縛は嫌いでしょう」 「アンタが相手なら意味も違うよ」 声も涙も何もかも、 感情、気配、望むのなら忠誠心だって。 「幸村殿が可哀想だわ。そんな発言を聞いたら泣くわよ、きっと」 「良いの。旦那には今までずっと『仕事』の俺を捧げたんだからさ」 今まで言葉にしなくたって、ずっと心に秘めていた。 いつか、いつかとそっと願っていた。 戦場で、城の庭で、城下町で 彼女の隣に立つたびにそれを自覚して、自覚するたびに迷って、その繰り返し。 だけれど今夜こそは、腹を決めた。 「すごい台詞。まるで口説き文句ね」 「…だからねさん。俺さ、これでも必死に、口説いてるんだけど」 「……本当に?」 「本当に」 今夜は月が明るい。おかげで彼女の顔がよく見える。 美貌は少しだけ、強張っていた。 声だって、ほんの少しだけれど震えていた。 身分違いだとか、今更だとか、否定の言葉はいくらでもある。 だけど、ねぇ。 気付いて欲しい。俺が今までどんな顔でアンタの隣に立っていたか。 「…代償なんて、私にはないわよ。 何も持ってない。佐助、あなたがくれるものに返してあげられるものは、何も」 「そんなの。俺だって、手放すものはもう何もないよ?」 だって初めて出会ったその瞬間から、きっとすべてアンタのものだった。
だから今こそ
誓いという名の私の最後を あなたに 2007/01/20 |