押し倒された。
いや、現実から隔離された、といったほうが正しいかもしれない。


かつてはミッドガルと呼ばれていた瓦礫の街で、彼は愛刀を宙に放るかわりに私の腕を掴んだ。
崩れた建物のせいで足場は悪く、私は抵抗する暇もなく動きを封じられる。
そのままひどく優しい手つきで私の身体をコンクリートの床に横たえたセフィロスは、
狂気じみた瞳を細めて楽しそうに喉を鳴らした。
ガラス玉のような淡緑の目に、驚くほど無表情な自分の顔が映っているのが見える。

馬乗りになっているくせに、彼の手は私に直接は触れていない。
両腕と長い髪と視線。そして背中の黒い片翼。
そのすべてが私を絡めとって、支配して、閉じ込めてしまう。


「絶望したか」


セフィロスが口を開くと、辺りの空気が一瞬にして静かになったような、そんな気がした。
何に絶望したと彼は聞いているんだろう。
私を束縛する自分に対してか、敵であるはずの彼に抵抗しない私自身にか。
黒い片翼が私の身体の線を撫でるように揺れた。
守ってくれているのか。
支配したがっているのか。
慈しんでいるつもりなのか。


「いいえ」


それは意識して出た答えではなかった。ただ本能的に、口から滑り落ちた。
すこし驚いたように瞳を揺らした彼は、それでもすぐ唇に微笑みを戻す。


「愛している。私だけの、


落ちてくるセフィロスの声に誘われるように目を閉じた。
きっと彼は満足げに微笑んで、私の額にキスを落としてくれるのだろう。

たったふたりきりの世界。支配するのは、彼。





イデア・アンブレラ








2008/08/28
私を覆い、隠し、隔離する。