原因は完全に閉まりきっていなかったブラインドだった。
昨夜寝返りを打った、その位置が悪かったらしい。
心地よい夢の中を漂っていた俺の顔を容赦なく照らし出した朝の光は、
隣に眠るよりも先に目覚めるという、おおいに珍しい結果を招いた。

どうやら俺は相手に対する親密さがそのまま睡眠の深さに直結しているらしく、
仕事の日は別として、こういった完全なオフの日に彼女より早く起きたことはほとんどない。
休みの日だからといって朝食を遅くしたくはないのか、
それとも床に落ちた衣服の残骸をそのままにしておくのが嫌なのか。
(以前本人に尋ねてみたところ、「セフィロスの寝顔が見られるからね」と笑っていたが)
彼女はいつも、俺が目覚めるより先にこの腕から抜け出てしまうのだ。

幸いなことに、ブラインド越しの無遠慮な朝陽はにまでは届いていなかった。
普段あまり見ることのない寝顔に頬が緩むのが自分でも分かる。
うすく開いた唇の、その少しばかり横に触れるだけのキスを落として
ベッドのスプリングが軋む音で彼女の眠りを妨げぬよう、静かに身体を起こす。

シュル、とシーツのこすれる独特の感触。
昨夜、彼女に付けられた背中の爪の傷が甘く痛んだ。



が目を覚ましたのは、それからしばらく経ったころだった。
上半身だけ起こして目をこすりながら俺の姿を探す彼女にやさしく微笑んでやる。


「おはよう」
「…おはよ……」


寝起きであまり働かない思考回路と、いつもと違う状況にまばたきを繰り返しながらも、
きちんと挨拶が返ってくる辺りがらしい。


「…どうしたの、珍しいね?」
「無粋な太陽に邪魔されてしまったからな」


お前に起こしてもらう機会を失った、と苦笑混じりに近付けば、
ようやくはっきりしてきたらしい意識に頬を赤らめてが少し笑った。
改めてもう一度、朝のキスを。


「コーヒーを淹れるから、シャワーでも浴びてこい」
「うん……って、あれ?」


キッチンへと戻る俺の背中に、躊躇いがちのの声。
あまりに上手く進んでいく状況に、唇の端がわずかに上がる。


「あ、あのセフィロス…服は……?」
「ああ悪い。片付けた」


さらりと返した俺の返事に目を見開く彼女に、
いつもが俺より先に起きる理由が今ようやく分かった気がした。

きっと彼女はいつかこうなることが目に見えていたのだ。
そう分かったからにはやはり、


「そこにある俺のシャツでも羽織ったらどうだ?」


ひとりの男として、予想通りの反応を返してやらねば。



「………セフィロス……」
「別にシーツでもいいが大きいだろう。足を引っ掛けて転ばないようにな」
「………」
「急げ。コーヒーが冷めるぞ」
「………」
「…
「………」


…まずい。どうやら少しばかりやりすぎたらしい。
彼女は本当に怒るか呆れるかすると無言になる。
そうして今俺にしているように、相手の目をじっと見つめるのだ。
本人は睨んでいるつもりなのかもしれないが、生憎と俺には効かない。
理由は簡単だ、『恋は盲目』。


「やれやれ…。さて、どうすれば機嫌を直してくれるんだ?」
「……ヨーグルト」
「ん?」
「朝食。セフィロスが用意して」
「…そんなことで良いのか」
「砂糖は二杯だよ!」
「勿論。それからフレンチトーストも付けてやろう」
「…両面は」「よく焼いて、コーヒーは砂糖とミルク両方。朝は少し多めに、だろう?」


分かっている、と頷く俺に少し悔しそうな顔を向けて、
それでも「…よろしく」と頭を下げるが愛おしくて仕方がない。

さて、そんな彼女が浴室から出てくる前に、
ご希望のヨーグルトを砂糖と共に盛りつけておかなくては。





092, 朝色 ヨーグルト





「こうなるから嫌だったのに…」
「なんだ、やっぱりそういう理由だったのか」
「半分は…だって恥ずかしいじゃない。シーツで転ぶよりはマシだけど」
「………良いな」
「はい?」
「以前ザックスが『男のロマンだ!』と言っていたが、やっぱりその姿は何か男をそそるものがある」
「………(ザックス、明日問い詰めてやらなきゃ…!)」






2006/01/09
イメージはカスピ海ヨーグルト。