夢をみた。
良いとも悪いとも言えない、とにかく妙な夢だ。


黄ばんだライトに視界が煙るその世界で、は踊り子として存在していた。
銀貨一枚で一曲踊るような安い踊り子。
しかし、その痩せた身体はひどく魅惑的に男を誘い、
淡い微笑みを浮かべる横顔は造り物にも似た完璧な美しさを漂わせていた。

そして自分はといえば、そんな彼女を毎日のように買ってやる物好きなパトロンだった。
安っぽい舞台の上では銀貨一枚しか投げてはやらないくせに、
踊り終えたが腕の中に戻ってくると、絹のドレスや金の髪飾りに宝石の指輪、
さらには反吐が出そうなほどに甘い愛の言葉を惜しげもなく放る。

そのままズルズルと夢の中の時は過ぎ、
明日で舞台を降りるの、と寂しそうに笑った彼女のため、
夢の中の自分は何を思ったか、彼女が踊り子して生きる最後の日に一揃いの硝子の靴を贈った。


馬鹿げているにもほどがある。
俺はロマンチストじゃない。同じように、はシンデレラなんかじゃない。
それなのに、よりによって硝子の靴などと。


「そうは思わないか。夢を見た俺が言うのも何だが」
「…さぁな。ああ、でも」


他愛のない世間話の途中、何となく話題がそういう流れになって、
ジェネシスに昨夜の夢の一部始終を話した。
なんだかんだと突っ込みを入れつつ話を聞いていた彼は最後に一言、


「それは、を独占したいというお前の欲望の形かもしれないな?」


そう言って意味深に笑った。



夢とは人の内に眠る願望や感情の象徴だという。
だとすれば、俺はに何を求め、の何になりたいと思っているのだろう。


「―――…ロス、セフィロス? 早くしないと次の会議始まるけど…どうしたの?」
「……、何でもない。今行く」


部屋を去ったジェネシスに代わり、書類を両手に抱えたが廊下から顔を出した。
まさか本人に向かって先ほどの話をするわけにもいかず、
ドアの側で首を傾げるに曖昧に笑いかけ、ひとまず止めた思考を頭の隅へ追いやる。

そんな中途半端な追求の途中でも確実に言えることは、
あの妙な夢の中と同じに、美しく繊細で今にも壊れてしまいそうな硝子の靴は、
によく似合うだろうということ。





044,シンデレラの靴








2006/04/10
王子様になりたかった?