ハイヒールもピアスも放り出し、しどけなくソファに沈み込むは 嫌で嫌で仕方ないという顔をしていた。 「こら、そんな顔をするな。美人が台無しだ」 「…お世辞を言ったってだめ。セフィロスの方がずっと綺麗だもの」 普段の彼女には似つかわしくない、幼稚っぽい言葉に低く掠れた声。 心底疲れた、とでも言いたげに足を投げ出すの目元は淡い色で縁取られていた。 任務で戦地へ赴くときならいざ知らず、 会社にいるときも最低限の身だしなみ程度にしか化粧をしない彼女だが、 さすがに重役ばかりが集まる今夜のパーティーにはそれなりに気を遣ったらしい。 厚化粧の女たちを見慣れているセフィロスにとってのそれは十分な薄化粧なのだが、 元々が際立つ美貌の持ち主なだけに、今夜のの美しさは 普段から彼女を見慣れているタークスの面々さえも唸らせるほどだった。 「もう嫌。お酒だってそんなに得意じゃないのに」 「だからバルコニーに出ていたのか」 「毎回断るわけにもいかないじゃない。でも失敗だったわ、いろんな人が声をかけてくるし… 神羅の経営方針なんて私に分かるはずないのに!!」 少し酔っているのか、それとも本当に疲れて怒っているのか、 ばたばたと足を揺らす仕草は子供のようで少し可愛い。 そんな彼女の姿に唇の端を上げたセフィロスは、 さっきが放ったハイヒールを拾い上げると ソファの前に恭しく片膝をつき、彼女の足へと手を伸ばす。 「…似合わないわ。跪いてるみたい」 「俺は実際そのつもりなんだが」 「やめて」 「嫌だと言ったら?」 挑発的な言葉に反論しようとしたの口は、次の瞬間あっけなく塞がれた。 突然のキスは甘く深い。 ソファに押し付けられ、優しく唇を舐められる感触に 完全にペースを狂わされたがようやく口を開くことを許されたのは、 満足したらしいセフィロスがきっちり彼女の足にハイヒールを履かせた後だった。 「…セフィロス…。結局のところ、あなたは何がしたいの?」 「単純なことだ。さ、立てるか。 あと、やっぱりバルコニーにいたのは正解だったぞ。髪があまり乱れずに済んだろう」 靴を履かせたときと同じように、優雅な仕草でへ手を差し出すセフィロスはどこか楽しそうだった。 とまどいながらも誘われるように手をとったを立たせると、 淑女をエスコートする紳士のように優雅に微笑む。 「飲み直しだ。今晩は、甘いカクテルでも付き合ってやろう」
不機嫌なプリンセス
2006/10/29 さぁ、お手をどうぞ。 |