は右目がイノセンスという変わった人間だった。
エクソシストとしての腕も一流だが、それ以上にイイ女。
普段は長い前髪や眼帯でごく自然に隠されている彼女の右の眼球は、
あえて表現するなら、色とりどりの光を反射する水面のような不思議な色をしていた。

はいつもその目で人間を、アクマを、そして俺を見た。
その目が持つ詳しい能力は知らない。
せっかく築いた彼女との関係を壊したくなくて、会うのはいつも「白い方」の俺だったから。
それでもノアの本能のせいだろうか。何となく、分かった。

(あいつはたぶん、俺の正体に気付いてる)

けれどはただ笑うだけだ。笑って、俺の手とキスを受ける。
まぶたに唇を落とすと幸せそうに目を閉じる。その時だけ、彼女は普通の女になった。



失いたくない。そう思った。
今まで女に困ったことはなかったが、こんな感情は初めてだった。
会話も仕草も体温も何もかも、彼女のすべてが心地良い。
後にも先にもだけだ。
こんなに俺を夢中にさせて、俺のすべてを狂わせて。

(それでも時が来たら、)

俺はきっと、彼女を殺すだろう。
他の誰にもやらせはしない。俺だけが確実に、一瞬で彼女を貫く。
苦しませてから殺す方法はよく知ってる。同じ理由で、苦しませない方法だって知ってるのだ。
その美貌が歪まないうちに、静かに綺麗に殺してやる。
残るのは思い出と身体。そしてあの右眼。

千年公は忌まわしいその結晶をすぐさま壊せと言うだろう。
だが俺にだって男としてのプライドはある。ちっぽけな、愛する女も守れないプライドだけど。
の右眼は壊させない。ずっとずっと俺の手の中に置いておく。
そしていつかこの馬鹿らしい戦争が終わって、すべての人間が消え去ったら
ガラス玉のようなそれに改めて「愛している」と口付けるのだ。





沈黙するジュエルに口付けの愛










2008/03/07