いつものように朝の挨拶を交わしたとき、の唇が普段よりも赤いことに気が付いた。
たしかに彼女は色が白い。
もちろん自分のような不健康な肌色ではなく、女性的な、けれどとても白い肌をしている。
だから常人よりも唇が赤く見えてしまうのは仕方のないことなのだが、
それにしても今日は艶やかな赤色がいっそう目につく。

昨夜は酒も飲んでいないし、別段暑いわけでもない。
まさか具合でも悪いのかと額に触れてみたが、熱があるわけでもないらしい。

一度なにかを気にしだすとなかなか落ち着かないヴィンセントは、
出来上がった朝食とコーヒーポットを運んでくるにそれとなく尋ねてみた。
するとは少しだけ驚いたように目を見開いて、


「だって今日、ヴィンセントの誕生日でしょう」


小さな声でそう言って、はにかみながら「おめでとう」と微笑んだ。


「プレゼントは…一応、用意できたんだけど。
 他にも何かしてあげられることはないかと思って、ティファに相談してみたらね。
 『ヴィンセントの好きな色の口紅でも付けてあげたら』って」


こんなふうに、女同士のやりとりを正直に話してみせるのことだ。
おそらくティファが言葉の裏に隠した意図に気付かず、そのままの意味で受け取ったのだろう。
いくらそういった類の話に鈍くてもそれぐらいは分かるヴィンセントは小さな溜め息をついたが、
その反面、胸の中は満ち足りた気持ちで一杯だった。

いつも付けている淡い色もよく似合うが、これはこれでとても嬉しい。

無口な自分と、そんな自分よりもすこし鈍い彼女。
なかなか進展のない自分たちに気を利かせてくれたティファの計らいに感謝しながら、
ヴィンセントはコーヒーを差し出すの唇に指を伸ばした。





私色に染まった
その唇に
キス を贈ろう。






2006/10/13
お誕生日おめでとう、ミスターヴァレンタイン。
間に合ってよかった!