ぐっと大きく伸びをして、背中から布団にダイブする。
全身の力を抜くように息を吐いた。風呂上りの身体に、窓から入る夜風が気持ちいい。

今日も良い一日だった。
久しぶりにあった他校との練習試合ではホームランを一つ打ってやったし、
夕方から店の手伝いに出ていたときには馴染みの客が「また背が伸びたな」と褒めてくれた。
日曜で客も多かったせいか、父親もいつも以上に機嫌が良かった。
試合での自分の活躍を話して聞かせた父親に頭をぐしゃっと撫でられるのは、
この年になると恥ずかしい気もするが、それでもやっぱり嬉しい。


ごろりと寝返りをうって、机の上に放ってある通学鞄に目をやった。
自分にしては珍しく、明日の教科書の準備も宿題もすっかり済ませてある。
大量に出された国語のプリントは昨日のうちにどうにか終わらせた。

腹筋を使って布団の上から起き上がり、机の上に置いたままだったノートを手に取る。
薄いオレンジ色のノート。右下に、小さく丁寧な字で「」と書いてある。
国語のプリントの心強い味方だった、隣の席の可愛い女の子のもの。


『わあ、山本くん日曜日の試合出るの? すごい!』

『あっでもそれだと大変だね。今回の国語の宿題、けっこう量が多いって先生が言ってたし』

『あの、はい。私のでよかったら。大丈夫、ノートのまとめ方だけは自信あるんだ』


ちょっとでも役に立つと良いんだけど、と心配そうにノートを渡してくれたは、
帰り際に「試合がんばってね」と手を振ってくれた。
好きな女の子にそんなことをされたら嫌だって張りきる。
フェンスの向こうに飛んでいったボールを見たとき、まず思い浮かんだのはの顔だった。
このノートを返すとき、彼女に聞かせる話ができた。
はきっといつものように、あの楽しそうな顔で聞いてくれるだろう。


オレンジのノートを鞄にしまって、目覚まし時計をいつもの時間にセットする。
電気を消して布団にもぐり込む。清潔なシーツのいい匂いがした。

今日も充実した一日だった。でも、やっぱり何か物足りない。


「…早く、会いてぇな」


思わず呟いた言葉はあくびの中に溶けた。





サンデーマンデー
(明日は君に会える!)








2009/08/21