戦のためにしばらく離れていた故郷は、 すこし見ない間にもうすっかり秋の気配に満ちていた。 夏に比べて少しだけ低くなった気がする空。 あざやかな色をまとい始めた山の木々。 冷たい風を連れてくる澄んだ空気。 私は昔から秋が好きだ。 この風景の中にいると、不思議と気持ちが落ち着く。 他の季節に比べて、なんだか居心地がいいような、そんな気がする。 久しぶりに戦いの喧騒から離れた散歩の途中で、 拾ったばかりの木の実を指先でころころ転がしながら足元の落ち葉を軽く蹴り上げる。 ぱさりと軽い音が鳴った。乾いた感触がつま先をくすぐる。 「楽しそうだな」 一瞬だけ宙を舞って、はらはらと散っていく色とりどりの残像。 それを綺麗だと思ったのか、 隣を歩いていた幸村がにっこりと笑いかけてくれた。 「暗くなってきた。そろそろ屋敷へ戻ろう」 「そうね。陽が落ちたらこの落ち葉の色も見えないし」 赤みを帯び始めた空が眩しかった。 幸村と並んで落ち葉を蹴りながら来た道を戻る。 同じように家路を急いでいるのか、 すっと目の前を横切った秋茜に、彼が子供みたいに嬉しそうな声を上げた。 幸村と一緒にいる時間も私は好き。 幼い頃からお互いを知っているせいか、一緒にいると気が楽だし、なにより楽しい。 それに彼と話していると、なんだかとても暖かい気分になる。 幸村は秋が似合う。昔からの私の持論だ。 他愛ない世間話の合間に佐助に同意を求めてみたら、 「旦那は夏っぽいけどねぇ」とやんわり反論されてしまったけれど。 (でも彼の言い分は正しかったから、二人して笑ったのも確かだったりする) 私の中で幸村は、染まった紅葉と寒い日の炎の色。 同じ理由で、冷たい海や月明かり下の雪は奥州の独眼竜の色だ。 だから、だと思う。 私は秋が好き。小さい頃から、ずっと。 「ねぇ幸村。この散歩が終わったら焼き芋でも食べない? 佐助にも手伝ってもらって」 「おおっ、それは妙案!」 帰ったらさっそく焚き火の用意をせねば! そう意気込む彼が微笑ましくて、思わず緩む頬を隠すようにうつむくと、 足元の落ち葉をもう一度蹴り上げた。 舞い落ちる紅葉の影。やってくる夕焼けの足音。 そして数時間後に見るだろう炎に、 私はきっとまた、彼の横顔を重ね合わせるんだろう。
秋色、小道、炎の横顔 2006/12/29 初の幸村。え、年の瀬に書く内容じゃない? |